大和源太郎税理士の事務所。
午後の静かな時間。
エアコンの音だけが、
低く響いている。
机の上には、
見慣れた試算表が一枚。
そして、
もう一枚。
田中は、
その二枚を見比べていた。
「……これ」
思わず、声が漏れた。
「同じ数字、
ですよね?」
「ええ」
ヤマゲンは、
あっさり言った。
「同じ売上、
同じ利益
です」
「左が今」
「右が、
法人にした場合」
田中は、
数字を追った。
売上。
経費。
利益。
そして、
税金。
「……あれ?」
眉をひそめる。
「思ってたほど、
変わらへん
ですね」
ヤマゲンは、
何も言わない。
イチゴポッキーを一本、
袋から出す。
「田中さん」
ポッキーを机に置いたまま、
ヤマゲンは言った。
「法人にしたら
税金が安なる」
「この話な」
少し笑う。
「半分、ウソです」
田中は、
思わず顔を上げた。
「確かに」
ヤマゲンは続ける。
「所得が大きくなったら」
「個人の
累進課税より」
「法人税の方が
率は低くなる」
「でもな」
イチゴポッキーを一本立てる。
「そこだけ見たら
危ない」
「まず」
「税金の種類が増えます」
ヤマゲンは、
指を折りながら言った。
「法人税」
「法人住民税」
「事業税」
「それに」
少し間を置く。
「均等割な」
田中は、
首を傾げた。
「個人事業の
田中さんは
知らんで
当然や」
「法人になったら・・・」
「赤字の年でも」
「必ず払わんとアカン
均等割っちゅう税金
があるんですわ」
田中は、
小さく息を吐いた。
「それから」
ヤマゲンは、
少し声を落とした。
「社会保険」
田中の表情が、
引き締まる。
「法人になったら」
「原則、
加入です」
「社長一人でも」
「会社と個人で
半分ずつ」
「毎月、
固定で出ていきます」
「売上落ちても
関係ありません」
田中は、
無言になった。
「ここまで聞いて」
ヤマゲンは、
田中を見る。
「法人の方が
安いと思います?」
田中は少し言葉に詰まる。
「……正直、
微妙ですね」
「それが、
普通の答えです」
ヤマゲンは、
即答した。
「せやけどな」
ここで、
話を切り替える。
「法人にした方が
ええ人
は、
確実におる」
田中は、
顔を上げた。
「それは・・・」
「利益を
全部使い切らへん人」
「会社に
お金を残したい人」
「人を雇う予定がある人」
「自分が
現場から
少しずつ
離れたい人」
「そして・・・」
「税金の安さ
より」
はっきり言う。
「使い方
が変わる人です」
田中は、
自分を振り返った。
今は、
稼いだ分を
ほぼ生活に回している。
会社に
残す余裕は、
正直まだ少ない。
ヤマゲンは、
ポッキーをかじった。
カリッ。
「田中さん」
「今日の数字見て」
「法人にしたら
得か損か
を決める必要は
ありません」
「決めるのは」
少しだけ、
声を柔らげる。
「この先、
どう働きたいか
です」
「税金は」
「その結果として
ついてくるだけ」
田中は、
深く息を吐いた。
頭の中で、
「法人=節税」
という単純な図式が、
崩れていく。
「ヤマゲンさん」
「……法人化って」
「数字見る前に
決めたら
あかんですね」
「当たり前です」
ヤマゲンは、
イチゴ柄のネクタイを整えた。
「数字見ずに作る会社ほど、
長持ちせえへん」
事務所を出たあと。
田中は、
少し足取りが重かった。
でも、
不思議と後悔はなかった。
安くなるかどうか。
その問いは、
もうどうでもよかった。
代わりに残ったのは、
もっと本質的な疑問。
この仕事を、
どんな形で
続けたいのか。
竹岡税務会計事務所
経営が見えない!を数字でクリアに。
まずは、お気軽に無料相談を。
電話番号:090-7499-8552
営業時間:10:00~19:00
定休日 : 土日祝
所在地 : 大阪府富田林市須賀1-19-17 事務所概要はこちら