午前。
住宅街の一角にある、古い二階建ての事務所。
プレートには、
『高橋建設』
と書いてある。
夏美がドアに手をかけた、そのときだった。
「だから言うたやろ!!」
怒鳴り声が、建物の外まで響いた。
「今さら材料が間に合いませんて、どういうことや!」
電話口らしい。
「昨日のうちに確認しとけ言うたやないか!」
ドン!
机を叩く音がした。
夏美の手が、ドアノブの上で止まる。
「段取りぐちゃぐちゃやないか!」
「現場は遊びちゃうんやぞ!」
ガチャ、と電話が切れる音。
静かになった。
夏美は小さく息を吸い、
ノックした。
「失礼します」
「誰や」
中から低い声が返ってきた。
事務所の中には、図面と書類が山のように積まれていた。
机の奥に、大きな男が座っている。
「大和税理士事務所の、一条です」
「ヤマゲン先生のとこの?」
「はい」
男は夏美をちらりと見た。
「若いな」
そのとき、
ガラッ、とドアが開いた。
「社長、現場の件なんですが」
作業服の男が入ってきた。
「なんや」
「コンクリの打設、今日ちょっと――」
「なんでや!」
怒鳴り声が飛んだ。
「段取り、どうなっとったんや!」
「いや、その……」
「段取りできへんのやったら最初から言え!」
作業服の男は黙って頭を下げた。
社長は腕を組んだまま言う。
「現場はな」
「机の上の計算通りには動かへんのや」
その言葉は、さっき電話で怒鳴っていた言葉と同じだった。
男が出ていくと、
社長は試算表を手に取った。
そして。
バン!
机に叩きつけた。
「なんやこれ!」
夏美の肩がびくっと動いた。
「税金、こんな高いんか!」
「今期は利益が出ていますので……」
「利益?」
社長の眉が上がる。
「ネーチャン」
一拍。
「それをどないかするのが、
夏美は口ごもる。
「あのな、ネーチャン」
「ネーチャンの言いたいことは、
分かる」
「でもな、数字の世界だけやない」
「現場はそんな簡単ちゃう」
夏美は小さくうなずいた。
「申し訳ありません」
社長は椅子にもたれた。
「税金は高いわ」
「材料は上がるわ」
「燃料も上がるわ」
机を指で叩く。
「政治家は何しとるんや」
吐き捨てるように言った。
「この国、もうあかんわ」
夏美は、何も言えなかった。
帰り道。
駅までの道を歩きながら、
足が重かった。
怒られた。
何が悪かったのかも、
よく分からない。
電車に乗る。
窓の外を見ながら、
鞄からノートを取り出した。
表紙には「社長ノート」と書いてある。
まだ少し震えた手で、
ページを開き、
ペンを持つ。
・高橋建設
・電話で怒る
・職人に怒る
・私にも怒る
・政治にも怒る
・ネーチャンと呼ぶ
深く息を吐くと、
最後に一行、書き足した。
・妖怪イカリオヤジ
ノートを閉じた。
電車が揺れる。
「源太郎おじさんは、
どうやって対応しているのかしら、あんな社長……」
竹岡税務会計事務所
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