田中 恒一の仕事は、金属部品の加工だった。
町工場、と言うほど大きくはない。
旋盤とフライス盤、それに少し古くなった溶接機。
独立したとき、真っ先に頭にあったのは
「食っていけるかどうか」
それだけだった。
税金のことは、正直、後回しだった。
売上は、初年度が800万円ほど。
二年目で1,200万円。
三年目の今年は、どうやら1,500万円を超えそうだ。
「まだ小さいしな……」
誰に言われたわけでもない。
田中自身が、そう決めつけていた。
――売上が少なければ、税金は大したことない。
――個人事業主なんて、そんなもんだ。
開業届を出したとき、税務署の人は淡々としていた。
怒られもしなかったし、細かい説明もなかった。
だから余計に、
「この程度なら、問題ない」
と思ってしまった。
会計ソフトには、数字を入れている。
材料費。外注費。工具代。
思い出しながら、月に一度まとめて入力する。
それで黒字なら、良し。
赤字なら、まあ仕方ない。
――そうやって、三年が過ぎた。
その夜、田中はネットの記事を読んでいた。
「売上が少ない場合、申告は不要ですか?」
検索結果は、どれも歯切れが悪い。
「ケースによる」
「条件次第」
「一概には言えません」
腹の底が、じわりと冷える。
ふと、机の引き出しを開ける。
中には、束ねた領収書。
油で汚れたレシート。
文字がかすれて、もう読めないものもある。
「……これ、ちゃんとした帳簿って言えるのか?」
自分に問いかけて、答えは出なかった。
売上が少ないから大丈夫。
忙しいから後でやる。
分からないから調べない。
その積み重ねが、
「今は何も起きていない」
という安心感を作っていただけだった。
机の上の、税務署の封筒。
そこには、まだ何も書かれていない。
けれど田中は、初めてはっきりと感じていた。
「問題は、売上の額じゃない」
分かっていないこと、そのものが、
問題なのだと。
その時、スマートフォンが震えた。
取引先からの着信だった。
「田中さん、今度設備、もう一台入れるって話でしたよね?」
設備。
投資。
お金。
田中は、一瞬言葉に詰まった。
「……少し、考えさせてください」
電話を切った後、田中は小さく息を吐いた。
売上が少ないから大丈夫。
そう信じてきた自分が、
急に、心もとなく思えた。
知らないまま進むのは、
思っていたより、ずっと怖い。
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