工場の片隅で、妻が伝票を並べていた。
「これ、今月分。
請求書も、そろってるで」
田中 恒一は、旋盤の手を止めた。
「助かるわ。
ほんま、毎回ありがとうな」
独立してから、
妻はずっと、事務を手伝ってくれている。
電話対応。
請求書の発行。
材料の発注。
気づけば、
“ついで”と呼べる量ではなくなっていた。
「なあ……」
田中は、少し間を置いてから言った。
「これ、
ちゃんと給料として出した方がええんかな」
妻は首をかしげた。
「うーん。
家計は一緒やし、
別にええんちゃう?」
田中は、
その言葉に、すぐにはうなずかなかった。
――それ、
税務的には、
通らへん気がする。
その夜、
田中は先生に電話をかけた。
「先生、
家族に給料払う話なんですけど……
条件、ありますよね?」
電話の向こうで、
先生は少し間を置いてから答えた。
「あります。
しかも、結構はっきり」
田中は、背筋を伸ばした。
「まず前提としてな」
先生の声は、落ち着いている。
「田中さん、
青色申告の届け、出してはります?」
「……出してます」
「ほな、スタートラインには立ってます」
少し、安心した。
「でもな」
先生は、続けた。
「それだけやと、足りません」
「……え?」
「家族に給料を“経費”にしたいならな」
一拍。
「青色専従者給与の届出書
これ、出してなあきません」
田中は、思わずメモを取った。
「出してないと……?」
「どれだけ働いてもろても、
原則、経費にはなりません」
言葉は穏やかだが、
内容は、はっきりしていた。
「じゃあ、
白色申告の場合は?」
田中が聞くと、
先生は少し苦笑した。
「白色でもな、
一応、控除はあります」
「一応、って……」
「上限、かなり低いですわ」
田中は、すぐ理解した。
今の仕事量。
今の関わり方。
それを考えると、
実務的ではない。
「つまりな」
先生は、整理するように言った。
「家族に給料払いたいなら」
・青色申告をしていること
・青色専従者給与の届出を出していること
・仕事内容と金額が妥当であること
・実際に支払っていること
「この四つ、全部そろって、初めて“経費”です」
田中は、ゆっくりうなずいた。
「知らんまま払ってたら……」
「アウトですわ」
先生は、きっぱり言った。
「悪気なくても、
否認されます」
その言葉は重かった。
でも、不思議と怖さはなかった。
理由が、はっきりしたからだ。
「なあ、田中さん」
先生は、少し声を和らげた。
「これな、
節税の話やないです」
また、その言葉だ。
「仕事として頼んでるなら、
制度も、ちゃんと使いましょ」
電話を切ったあと、
田中は工場に戻った。
「なあ」
妻に声をかける。
「給料の話、
ちゃんと整理せなあかんみたいや」
「どういうこと?」
「青色申告で、
ちゃんと届出せんと、
経費にならへんねん」
妻は、少し驚いた顔をした。
「そんなん、知らんかったわ」
「俺もや」
二人で、少し笑った。
その夜、
田中はノートに書いた。
・青色専従者給与の届出
・業務内容
・時間
・金額
・振込方法
感覚じゃない。
情でもない。
制度を知った上で、
どう使うかを決める。
家族に払う給料は、
“なんとなく”では、成り立たない。
事業として、
ちゃんと向き合っているかどうか
それが、
問われているのだと、
田中は初めて腑に落ちた。
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