🍀数字に心
🍀税に愛
🍀人生には笑いと熱き想いを

営業時間:10:00~19:00 定休日: 土日祝

  1. ブログ
  2. 連続税務小説 ヤマゲン 第46話 「土台」
 

連続税務小説 ヤマゲン 第46話 「土台」

2026/02/15
連続税務小説 ヤマゲン 第46話 「土台」

 法人化という言葉は、

 電話の向こうから、静かに投げられた。

 

 ヤマゲンは、しばらく黙っていた。

 

「田中さん」

 

「はい」

 

「法人化はな、儲ける方法やない」

 

 受話器の向こうで、息をのむ音。

 

「看板を変えたら、中身まで変わるわけやない」

 

「やるなら、土台からやり直す覚悟がいる」

 

「……土台、ですか」

 

「そうや」

 

 一拍。

 

「帳簿や」




 三日後。

 

 工場の事務所。

 

 机の上には、通帳のコピーと領収書の束。

 金庫が、隅に置かれている。

 

「法人化の話をする前に」

 

 ヤマゲンは、ゆっくり口を開く。

 

「今の会計を、立て直す」

 

 田中は、黙ってうなずく。

 

「まず、現金や」

 

 金庫を開ける。

 

 札と小銭。

 

「現金出納帳、後から書くもんやない」

 

「毎日や」

 

「その日の終わりに、金庫の金と帳簿の残高を合わせる」

 

「1円でも違ったら、原因を探す」

 

 田中の顔が、わずかに固くなる。

 

「忙しいは、言い訳にならん」

「面倒くさい、それも言い訳にならん」

 

 声は穏やかだが、逃げ道はない。

 

「金が合わん会社に、信用はつかん」


「会社のカネは、田中さんのカネとはちゃう」

 夏美が、現金出納帳を差し出す。

 

 ヤマゲンは、今日の残高を書き込んだ。

 

「ここが、スタートや」


「会計ソフトの現金に
 入力したらエエんとちゃうんですか?」

「それは、
 あとの段階や」

「田中さんとこは、
 常にパソコンの前に座っている、
 専任の経理担当者がおる訳とちゃう」

「まずは、
 迅速に、
 現金の動きを記録する、
 これが大事なんや」

 一拍。

 

「それと」

 

 ヤマゲンは、ポケットから小さな伝票束を出す。


「入金伝票、

 出金伝票、
 この2つを常に持ち歩く」


「入金伝票は、
 現金が入ったときに書く。
 現金で売上代金をもらったとき、
 現金を銀行から引き出したとき、
 田中さん個人から、つまり、社長から現金を借りたとき、
 そんなときに書く」

 但し、現金売上は、
 売上領収書があれば、
 入金伝票への記入は省略してもOK、
 とヤマゲンは補足した。

「出金伝票は、
 現金を払ったときに書く。

 祝儀とか香典とかのように、領収書がもらわれへんとき、
 集金した現金を銀行に入れるとき、
 社長借入を現金で返済するとき、
 そんなときに書く」


「現金で備品とかを買い物したときも、
 書くんですか?」

「いや、
 それはレシートがあれば、
 出金伝票には記載省略してええ」

「つまり・・・」

「入金にせよ、
 出金にせよ、
 ”キャッシュを触ったとき”に、
 書くんや」

 

「いくら、何のために、入ったか、出したか」

 

「証拠は、後から作るもんやない」

 

 田中は、伝票を見つめる。

 

「記憶はな、都合よく薄れる」

 

「帳簿は、薄れたらあかん」

 

 夏美が、静かにうなずく。

 


 

「それから、小口現金方式っていうのが
 あるんやけど・・・」

「その方式は、田中さんところには合わへん」

 

「え?」

 

「人数も少ない」

 

「今の規模で小口は、手間になる」

 

「仮払精算方式にする」

 

 田中が眉を上げる。

 

「たとえば、月初に、会社から田中さんに5万円渡す」

 

「それが前渡金や」

 

「田中さんがこまごまと、
 現金で払うような、
 1か月の経費は、
 その中から払ってもらう」


「月の途中で、
 足りんようやったら、
 会社から追い金で、
 さらに前渡しする」

「田中さんは、
 会社から預かった前渡金から、
 経費を支払ったら、
 その都度、
 この仮払精算書に記入する。
 月末で締める」

 

「精算書には、
 領収書を全部、添付する」

 

「会社は内容を精査する」

 

「前渡金が5万円で、
 そこから使ったんが4万5千円やったら、
 余った5千円を会社に返す」

 

「6万円使ったんやったら、
 1万円、田中さんが立替してるから、
 会社から返してもらう」

 

「精算業務は翌月3営業日以内」

 

 机に、静かな緊張が落ちる。

「会社のカネと、個人の財布は、きっちり分ける」

 

「混ざったら・・・」

 

「会社は必ず弱る」

「今後、
 従業員が増えて、
 現金の取り扱い者が増えた場合も、
 なおさらや」

 

 田中は、ゆっくり息を吐く。

 

「立替え方式もある」

 

「1ヶ月、個人が払って、翌月精算」

 

「でも今は、前渡金のほうがええ」

 

「たとえ1ヶ月であれ、
 個人負担という迷惑を、
 個人にかけんほうがええ」

 

「ええか、田中さん」
 

 ヤマゲンは続けた。

「1日の仕事が終わったら、
 入金伝票と現金売上の領収書から、
 現金出納帳に入金を書いて、
 ほんで、
 出金伝票と現金払いの領収書から、
 現金出納帳の出金に書く」

「仮払精算方式やから、
 恐らく、
 現金払いの経費の領収書は、
 こまごまと現金出納帳に
 書く必要はないはずや」

「そうすると、
 現金出納帳は、
 スッキリしよる」

「スッキリした出納帳は、
 金庫との照合がしやすい」

「つまり、
 現金管理業務の、
 1日の最後の締めくくりは、
 金庫の現金と
 出納帳との照合や」


「たまに、
 現金出納帳が、
 途中の日付で”マイナス残高”になってる、
 そんな記帳をしている人がおるんやけど」

「現金出納帳が、
 マイナスになることは、
 決して無い」

「その場合、
 入金が漏れているか、
 出金が間違っているか、
 どっちかや」

「こうやって、
 金庫のカネと、
 現金出納帳の残高が、
 ピタッと一致したことを確認してから、
 はじめて、会計ソフトの現金に
 入力できるんや」

 田中は、
 憂鬱な気持ちになった。

 しかし、やるしかない、
 と気持ちを強くした。

 ヤマゲンは、金庫を見た。

 

「ええか、田中さん」

「土台は、現金や」

「現金は、通帳みたいに、
 自動的に記録してくれへん」

「ワシの経験上やけど、
 現金管理が甘い人は多い」

「逆に言えば、
 それくらい、
 現金管理は、
 単純そうで、
 実は、難しいんや」

 田中は、
 小さく頷いた。

「そやけど、
 人間、やれば慣れる」

「慣れてきたら、
 もうちょっと省略した方法を
 紹介します」

「それまでは・・・」

「・・・はい」

「徹底的に、
 自分の頭と体に、
 叩き込むことですわ」

「まず、
 田中さんがしっかり覚える」

「そうしたら、
 次は、田中さんが、
 教えられる人になる」

「社長は、
 仕事だけしとったらええ、
 っちゅう訳や無い」

「右手が、
 金属加工の職人やったら、
 左手は、
 経営者としての管理能力や」

 右手…
 左手…
 田中は、
 自身の両手に見入った。

「……ほんで」

「商売のカネにせよ、
 相続のカネにせよ、
 税務署が一番知りたいところも、
 実は、キャッシュや」
 
 ふと、
 ヤマゲンは笑った。

「田中さん、
 そんな難しい顔せんと、
 まずは、やりなはれ」

「ここが土台や」



 その夜。

 

 工場のシャッターは下りている。

 

 田中は、ひとりで金庫を開ける。

 

 札を数える。

 小銭を並べる。

 電卓を叩く。

 

 合計。

 

 出納帳を開く。

 

 ……合わない。

 

 1円。

 

 たった1円。

 

 もう一度、数える。

 

 やはり、1円違う。

 

 「まあ、ええか」

 

 その言葉が、喉まで上がる。

 

 だが。

 

 ――1円でも違ったら、原因を探す。

 

 出納帳をめくる。

 

 今日の入金。

 支払。

 釣銭。

 

 ひとつずつ追う。

 

 30分。

 

 見つかった。

 

 釣銭で、1円玉を出し忘れていた。

 

 自分のミスだった。

 

 田中は、静かに1円を金庫に入れる。

 

 残高は、合った。

 

 ぴたりと。

 

 胸の奥が、重い。

 

 ――これまで、何円見逃してきたのか。

 

 電話をかける。

 

「先生」

 

「なんや」

 

「1円、合いませんでした」

 

「原因は、自分のミスでした」

 

 一拍。

 

「見つけましたか」

 

「はい」

 

「それでええ」

 

 静かな声。

 

「1円が気にならん人間はな」

 

「1万円も、いずれ気にならん」

 

 沈黙。

 

「今日の1円は、授業料や」

 

「安いもんや」

「法人化するまでは、
 いわば練習期間や」

「なんぼでも、
 間違えたらええ」

「その方が、
 勉強になる」

「ワシも、
 何遍でも、
 何遍でも、
 トコトン、
 教えさせてもらいます」

 

 電話が切れる。

 

 現金出納帳の残高。

 

 ぴたりと合っている。

 

(なんや、この清々しい気持ちは…)

 田中は、
 これまでの経理作業で経験したことのない、
 そんな感覚になった。

 法人は、看板やない。

 土台や。

 ヤマゲンの言葉が、
 心地よい疲れの田中に
 リフレインする。

 竹岡税務会計事務所 

経営が見えない!を数字でクリアに。

まずは、お気軽に無料相談を。

電話番号:090-7499-8552

営業時間:10:00~19:00

定休日 : 土日祝

所在地 : 大阪府富田林市須賀1-19-17  事務所概要はこちら

お問い合わせ