借入の話をした夜。
源太郎は、工場の外に立っていた。
夏の匂いが、ふと、胸の奥を揺らす。
中学二年。
一学期の終業式の前夜だった。
「げんちゃん、キャッチボール、しよや」
クラスメイトの加山雄一は、
いつもの調子で源太郎の家に誘いに来た。
明日は終業式。
通知表をもらって、
そのまま夏休み。
浮き立つような夜だった。
近所の空き地。
隣の町工場の明かりが、こうこうと漏れている。
二人は、よくそこでボールを投げ合った。
その夜も、いつも通りのはずだった。
ぱん、とミットが鳴る。
雄一の球は、少しだけ強かった。
「なあ、げんちゃん」
雄一は、ボールを握ったまま言った。
「オヤジ、会社つぶれた」
源太郎は、一瞬、聞き取れなかった。
「ゆうちゃん、もっぺん、いうて」
「倒産や」
ボールが、地面に落ちた。
「オヤジの会社、借金、めっちゃあるらしい」
「そやから」
「親、離婚するねん」
「おれは、お袋の実家、九州に行く」
虫の音だけが、聞こえる。
「明日で、学校、最後や」
「げんちゃんには」
「そうか……」
翌朝。
終業式。
みんな、浮かれていた。
「海行くんやろ?」
「ゲーム貸してや」
蝉の声が、校庭から響く。
体育館で、校長の話。
そのあと、教室に戻る。
担任が、少し声を落とした。
「加山くんは、お家の事情で転校することになりました」
ざわめき。
さっきまでの笑い声が、少しだけ止まる。
雄一が立ち上がる。
「みんな、これまでありがとう」
「さようなら」
それだけだった。
拍手も、まばらだった。
夏休み前のざわめきの中に、
その言葉は、静かに沈んだ。
帰り道。
「加山、おまえんち、倒産したらしいな」
「夜逃げでもするんやろ」
笑い声。
雄一は、うつむいた。
源太郎の中で、何かが切れた。
胸ぐらをつかみ、
拳を振り上げる。
「やめろや、げんちゃん」
雄一の声。
「もうええねん」
涙をこらえながら、
「ほんまのことやし」
その一言で、拳が止まった。
掴んでいた手を、ゆっくり離す。
気まずい空気。
「げんちゃん、ありがと」
「おれ……」
それ以上、言葉は出なかった。
翌朝。
雄一の家に行った。
「加山」の表札が、外されていた。
門の内側は、静まり返っている。
明るかった家だった。
もう、誰もいない。
夏は、始まったばかりだった。
だが、
源太郎の中で、
何かが終わった。
倒産の意味は、
まだ分からなかった。
けれど、
消えるということは、
はっきりと分かった。
借入は、金の話ではない。
覚悟の話だ。
そして、
放っておけば、
ある日、
家ごと持っていく。
あの終業式の前夜。
転がったボール。
ゆうちゃんの泣き顔。
あそこが、
源太郎にとっての原点であった。
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