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連続税務小説 ヤマゲン 第55話 「返せるライン」

2026/02/23
連続税務小説 ヤマゲン 第55話 「返せるライン」

 

 借入の話から、数日。

 

 工場の隅。

 

 旋盤の音が、一定のリズムで響いている。

 

 小さな机の上には、白い紙と電卓。

 

 ヤマゲンが言った。

 

「田中さん」

 

「はい」

 

「借入を返す、と言いましたな」

 

「……はい」

 

「ほな、いくら売ったら返せるか、分かっとりますか」

 

 田中は、黙った。

 

 夏美が小さく言う。

 

「損益分岐点、でしょうか」


「そうや。ただし、順番がある」


 

「まず固定費や」

 

「売上がゼロでも、毎月必ず出ていく金は何や」

 

 田中が指折り数える。

 

「家賃」

 

「人件費」

 

「水道光熱費」

 

「通信費」

 

「借入の利息もですね」

 

「その通りや」

 

 ヤマゲンは書く。

 

 固定費 120万円

 

「これは、売上と関係なく出ていく金や」




「次に変動費や」

「売上と連動して増える経費は?」

 

「材料仕入れです」

 

「外注費もあります」

 

「そや」

 

「一個作ったら一個分かかる金や」

 

 夏美が整理する。

 

「売上に比例する費用ですね」

 

「その通りや」



 

「ほな聞くで」

 

「売上のうち、材料と外注で消える割合、どれくらいや思う」

 

 田中は考え込む。

 

「感覚ですが……6割くらいですかね」

 

「それが変動費率や」

 

 ヤマゲンは書いた。

 

 変動費率 60%

 限界利益率 40%

 

「売上100万なら、60万が変動費で、40万しか残らん」

 

「その40万から固定費を払うんや」

 

 田中は、うなずいた。



 

「ほな計算や」

 

 120万 ÷ 0.40

 

 電卓の表示。

 

「……300万円です」

 

「これが損益分岐点売上高や」

 

「利益ゼロのラインや」

 

 旋盤の音だけが響く。



 

「せやけどな」

 

 ヤマゲンの声が低くなる。

 

「利益ゼロで、借入は返せるか」

 

 田中の喉が、わずかに動いた。

 

「……返せません」

 

「そや」

 

「返済の元本は経費やない」

 

「今の計算だけでは、
 返済の元本が必要コストに入ってへん」

 


 

「第二段階や」

 

 ヤマゲンは紙を替えた。

 

「旋盤の元本返済、毎月いくらや」

 

「13万円です」

 

「運転資金は」

 

「5万円です」

 

「合計は」

 

「18万円です」

 

「固定費はなんぼやった」

「120万円です」

「そこに足すんや」

 固定費120万 + 返済元本18万 = 138万

 

「あとは、同じ式や」

「138万円を限界利益率で割り戻す」

 

 138万 ÷ 0.40

 

「……345万円です」

 

「これが資金収支分岐点や」

 

「現金が減らん最低ラインや」



 

 今の平均売上は、月280万円。

 

 月65万円、足りない。

 

 田中の手が、紙の端を強く握る。

 

 夏美が、静かに言った。

 

「ゼロは、安全ではないんですね」

 

「そや」

 

「ゼロは、出発点や」



 

 しばらく、誰も話さなかった。

 

 旋盤の回転音だけが、時間を刻む。

 

 ヤマゲンが、ぽつりと言う。

 

「銀行はな」

 

「この数字を見とる」

 

 田中が顔を上げる。

 

「決算書を出すやろ」

 

「その向こうで、銀行はこう考えとる」

 

 “返済原資はあるか”

 

 空気が変わる。

 

「銀行は敵やない」

 

「せやけど、情では貸さん」

 

「数字で見る」

 

 夏美が小さくつぶやく。

 

「ということは……」

 

「資金収支分岐点を超えなければ、信用も積み上がらない」

 

「その通りや」



 

 ヤマゲンは、もう一枚紙を出した。

 

「方法は3つや」

 

「売上を増やす」

 

「固定費を削る」

 

「変動費率を下げる」

 

 田中が言う。

 

「値上げ……ですか」

 

 初めて、自分から出た言葉だった。

 

 ヤマゲンは、わずかに笑う。

 

「よう気づいたな」

 

「値上げしたことによって、
 変動費率が60%から58%に下がったら、どうなる」


「計算してみい」

 田中は電卓を叩こうとして、手が止まる。


「あれ……どうやって」

「今、基準は何や」

「固定費120万に返済元本18万を足して……138万です」

「変動費率が58%なら、限界利益率は?」

「100%-58%で……42%です」

「ほな、やってみ」

 138万 ÷ 0.42 

 

「……約328万円です」

 

 空気がわずかに変わる。

 

「元は345万やったな」

 

「はい」

 

「いくら下がった」

 

「……17万円です」

 

 夏美が小さく言う。

「たった2%で、17万円も変わるんですね」

「そや」


「売上を17万円増やすより、
 2%値上げする方が、現実的やろ」

 田中は、ゆっくりとうなずく。



「次は、5%値上げや」

「原価が変わらん前提やったら、売価だけ上がる分、変動費率は下がる」

「60%が、55%になる」

「ほな、限界利益率は?」

「45%です」

「やってみ」

 138万 ÷ 0.45

「……306万円です」

 田中の声が、少し震える。

 

「345万から、39万円下がります」

 

「すると、どうや」

 

「……正直、だいぶ楽になります」



 

 しばらく、旋盤の音だけが響く。

 

 田中が言った。

 

「でも……値上げは勇気がいります」

 

「確かに」

 

 ヤマゲンは静かに言う。


「価格は、勇気や」

「せやけどな」

 

「根拠のない値上げは、ただの願望や」

 

「原価を知り、限界利益を知り、

 はじめて交渉になる」




「得意先、応じてくれますかね」

「数字で示すんや」

「材料価格が上がっとることは、
 先方も分かっとる」

「せやけど、自分からは言わん」

 夏美が言う。

「三期比較で、
 売上・原価・粗利の推移をまとめましょうか」


「ええな」

 

「変動費率、上がっとるはずや」

 

「2期前より、8%上がっています」

 

「ほな、5%は理屈の範囲内やろ」


 

 田中は、しばらく黙る。

 

「断られたら……」

 

「そのときは、
 遅かれ早かれや」

 

「無理な単価で続ける方が、
 よほど危ない」

 

 静寂。




「借入は前借りや」

 

「前借りを返すには」

 

「未来を作らなあかん」

 

 田中は、まっすぐに言った。

 

「5%、お願いしてみます」

 

「まずは、306万円を最低ラインとして超えます」


 ヤマゲンは、静かにうなずく。

 

「超えたらな」

 

「銀行は“貸す側”から“応援する側”に変わる」




 土台は、現金。

 

 流れは、預金。

 

 信用は、売掛金。

 

 責任は、買掛金。

 

 時間は、固定資産。

 

 そして――

 

 ゼロは、守りやない。

 

 攻めの入り口や。

 

 旋盤は、今日も回り続けている。

 

 だが、回っているのは機械だけではない。


 数字もまた、動き始めた。

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