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【33】夫婦それそれが個人事業を営んでいる場合における「夫婦間の事業対価の支払い」について(後編)

2025/02/02
【33】夫婦それそれが個人事業を営んでいる場合における「夫婦間の事業対価の支払い」について(後編)




(前編はこちらから)
https://taketake-tax.pro/contents_107.html



妻の憂鬱と焦げたソースの匂い


税務調査官が帰ったあと、
妻の美佐江はうつろな気持ちで外を眺めていた。


こういう時に限ってやたらと賑々しく
刺さるほどに鋭利な夕日の光が
美佐江の気持ちをかえって重たくした。


「まぁ、そんなに落ち込んでもシャーナイやんか。
 今日はオレが特製お好み焼きを作るから、
 腹がいっぱいになればまた気分も変わるさ」


弘志はそう言うと夕飯の準備に取り掛かった。


大阪出身の弘志が作るお好み焼きは
ほとんど天才だと美佐江はいつも思っている。


程なくしてお好み焼きが出来上がり、
お腹も満たされた頃、
美佐江はやっと落ち着いた気持ちになった。


そして、改めて、
先ほどの税務調査官の言葉が思い出された。


事業主が、一緒に暮らしている家族に払った経費は、
それは経費とは認められない・・・。


「でも、わたしどうも納得がいかないのよね。
 いまの時代、奥さんだって働いている人が多いし、
 私のように個人事業主の人だって多くいるわ。」


「そうだね、夫婦それぞれ別のフリーランスをしているケースも
 うちだけじゃなく、他にもいると思うしね。
 それに、キミからオレへの支払いが経費にならないのなら、
 オレが確定申告で計上したキミからの売上分は、
 いったい、どうなるんだろう?」
 

ふたり沈黙したまま、
すっかり空になったホットプレートを見つめていた。


部屋には、焦げたソースの残り香が漂っている。


美佐江の頭に、ふと、弘志に5年ほど前に連れて行ってもらった
大阪の阿倍野筋にある、老夫婦が営むお好み焼き屋が思い出された。

「大阪かぁ」

「あっ、そうだ!」


突然、美佐江が叫んだ。


「わたし、明日は大阪にセミナー出張に行くじゃない?
 ちょうど良いタイミングだから、
 竹ちゃんの事務所にも行ってくる!」
 

「竹ちゃんって、俺たちの結婚式のときにも来てくれた、
 ダジャレばかり言っていた税理士さんだよね?」


「そう、その竹ちゃん!
 本人はダジャレじゃなくて、
 スベリ芸だって言い張っていたような気がするけど、
 大阪人っていつもそんなことばかり考えているのかしら・・・。
 でも、なかなか頼りになる人よ。
 ほら、うちもこのマンションを買ったときも、
 住宅ローン減税のことで色々と相談に乗ってくれたじゃない?
 今回もきっと相談に乗ってくれるわ。さっそく、アポを入れてみる!」


美佐江はそそくさとスマホを取り出し、
大阪のその税理士へ連絡を入れた。

一杯100万円のコーヒー


「まぁまぁ、まずは、コーヒーでも飲みぃや。
 そやけど、このコーヒー、一杯100万円払ってや。
 ウソウソ、コーヒーだけに、今のはブラックやったな!」


竹岡のダジャレは相変わらずだった。


これでどうやってクライアントから信頼を得るのだろうか?と
美佐江は不思議に思うのだが、
竹岡の以前と全く変わらぬその人懐っこさに、
美佐江は少し安堵した。


久しぶりにお互いの近況報告をし合ったあと、
美佐江は本題を伝えた。


「そうかぁ、色々と大変やったなぁ。
 しかも、税務調査なんて慣れてへんやろうし。
 とりあえずは、ご苦労さん。
 ほんで、ミサちゃん、実は、それなぁ、
 以前も、全く同じようなケースがあってん」


「え、そうなの?」


「せやねん」と竹岡は言うと、
おもむろに説明を始めた。


「ある息子さんがな、
 個人で商売をしてはったんやけど、
 仕事で使う事務所が必要やからって言って、
 息子の母親が個人で持ってる賃貸マンションの1室を借りてたんよ。」


「でも、そのオカン、中々のあきんど(商人)でなぁ、
 ほかのタナコ(入居者)さんが家賃払ってくれとるのに、
 アンタだけ息子やからっちゅうて、タダにする訳にはいかん、って、
 ほんで、息子はオカンに毎月家賃を払っとったワケ。」

「で、毎年の確定申告でな、
 オカンは息子からの家賃収入を売上に計上して申告して、
 ムスコもオカンに払った家賃を経費で申告しとったワケ。」


「で、税務調査が入ったってこと?」


と、美佐江は尋ねた。


「せやねん、それで税務署が来よって、
 知り合いを通じて、オレんところに相談に来はってん」

所得税法イソロク


竹岡は、200万円目のコーヒー飲みまっか?
と笑いながら、
コーヒーを美佐江のカップに継ぎ足し、
話をつづけた。


「ミサちゃんは知らんと思うけど、
 ごっつ何十年も前にできた、古くっさーい税金の法律が
 未だに生きとってなぁ、
 その法律が原因で、否認を受けてもうたって訳や、
 ミサちゃんも、そして、今話をした親子も・・・」


「古くさい法律?・・・なにそれ?」



「所得税法第56条ちゅうてな、
 56、つまり、五十六やからイソロクってオレは覚えてるねんけど、
 明治の家族状況を背景に出来た法律やねん。」


「なんなの、それ?」


「昔は、今と違って、
 オカンがOLしてまーす、なんて無かったやん?
 お父ちゃんが家の大黒柱として仕事をして、
 お母ちゃんは、家事とか育児をして・・・」


「うんうん」


「そんな時代にも税金ってあった訳やねんけど、
 お父ちゃんが奥さんに手伝い賃やと言ってカネを払ったとして、
 もし、それを経費にされたたら国は困るって考えたワケ。」


「どうして?」


「ナンデって、その時代、今みたいに会計ソフトなんて当然あらへんし、
 そもそも、記帳制度みたいなモノも、みんなちゃんと分かっとらんかった訳や。
 だから、もし、奥さんとか子どもに対して労賃を払ったら経費になりまっせなんて法律にしたら、
 みんなそれに乗っかってしまって、だれも一円も税金を払おうなんてせぇへんやん。
 そやから、家族に給料とかバイト賃とか払っても、経費にはならへん、
 んでもって、もらった方も売上にはならへん、っちゅう法律を作ったらしいわ」


「まさか、そんな法律が未だに生きてるってこと?!」


「いや、正しくは、戦前とか戦後とかに、なんどか改正をされとって、
 ほら、青色専従者給与っていう制度あるやん?
 ミサちゃんは、知ってる?」


「うん、知ってる!
 わたしも整体サロンをする前は、
 弘志さんの手伝いをして、青色専従者給料をもらっていたから・・・」


「そう、それそれ。
 家族に払った給料であっても、青色申告をしていれば、
 税務署に事前に届出をすることで経費に認めてもらえるってやつ。
 あと、青色申告にしてへん、つまり、白色申告者でも、
 配偶者はいくらまで、その他の親族はいくらまでって
 ある程度は、家族に払った給料が認められるようになったんよ。」


「じゃあ、どうして今回の私の件とか、
 さっき竹ちゃんが話していた親子の話とかはダメなの?」


「そもそも、これを理解しとかんとアカンのやけど・・・。
 原則、同一生計の家族に払ったカネは経費にはならんねん。
 これが大前提。
 そのうえで、あくまでも例外的な措置として、
 青色専従者給与とかは認めますって、建付けに法律はなってるねん」


「そっか。だから、わたしが弘志君に払ったホームページ作成代は、
 ダメって税務署に言われたのかぁ・・・・」


時代遅れ


「そう、そういうことやねんけど、ただ・・・」
と竹岡は続けた。


「税務署が否認の根拠にした所得税法56条って、
 もはや今の時代には合ってへんのよ。」


「そうよね、女性も働く時代だし、
 なんなら女性起業家もいる時代だし」


「そう、そこやねん!
 ミサちゃんだって、整体サロンの女性起業家やん、れっきとした。
 昔みたいに、奥さんは家を守り、家事育児に専念しなさい、なんて時代とちゃう。
 でも、法律が未だにそれに追いついてへんねん・・・。
 そして、未だに配偶者控除とかで奥さんを外に出さないようにしてしまっている訳や」


「そっかぁ、結局、日本ってそういう古い慣習に縛られている訳ね・・・」


「そう。でも、これっておかしいやん!って人たちも沢山いるよ。
 これをテーマに論文を書いている大学教授もいるし、
 国会での審議事項に取り上げた国会議員さんもいる。」



「そやけど・・・」と竹岡は言った。


「そやけど?・・・どうしたの?」


「世の中には、色んな人がいるやん。
 ミサちゃんみたく、バリバリ仕事したろって人もおるけど、
 夫の扶養の範囲内で働きたい人や、
 そもそも結婚したら働きたくないって人も実際にはいるやんかぁ?」


「そうね、私だって、仕事をしなくてもイイのなら、
 その方がラクだけど・・・。
 でも、私の場合は、仕事が好きみたい。
 ただ、きっと、育った環境とか、親御さんやお姑さんとかの影響
 あるかも知れないわね。」


「そうや、日本は狭い国って言っても、
 北から南まで、東京みたいな大都市ばかりじゃないからなぁ。
 今風な発展的な考え方の人もおれば、
 古風な考えを大切にしている人たちもいるわなぁ」


実はめちゃくちゃ難しい問題


「ただ、問題は・・・」と、竹岡は続けた。


「選択の余地がないってところやねん」


「選択の余地?」


「うん。選択できへんってのが問題やねん。
 これだけ多様化の時代になったんやから、
 こういう場合はこうで、
 こういう場合はこうできまっせ、ってすればかなり柔軟になる。」


「うん、そうね」


「ただ、選択の余地があり過ぎたり、柔軟にしすぎると、
 税務署というか、財務省というか、
 税を集める立場の国家としては、
 ケースバイケースの事例が多すぎて、複雑化しすぎて、
 公平な課税を達成することが難しくなるし、
 国民としても税制が複雑になり過ぎたらパニックになってまう。
 だから、どこかで線引きが必要になるってのも、事実やねん」


「ん~、なんだか、わたし、
 とても難しい問題に出会ちゃったみたいね・・・」


「そうやねん。
 家族への支払いは経費に落ちへんで!
 それが法律でっせ!
 ・・・って単純な話じゃなく、
 明治から戦前、戦後、そして現代へと至る、
 日本の家族制度の変化も背景にあるから、
 そうなると、民法とか憲法とかも関係してくるから、
 税法だけじゃなくて、
 めちゃめちゃ難しい問題でもあるねん」

コウセイノセイキュウ


「ただ、少なくとも・・・」


「なに?」


「弘志君については、コウセイノセイキュウ(更正の請求)って手続きをすれば、
 ミサちゃんからもらった売上を取消することができるから、
 払った税金が還付される可能性が高いな。
 ぜひ、それもやったほうがイイよ」


「あぁ、それそれ!!
 それも聞こうと思っていたのよ!!
 ヒロくん、(じゃあ、おれが君からもらった売上はどうなるんだ?)
 って言ってたのよね!」


「そらそうや。
 ミサちゃんの経費が否認されただけでは、
 話のつじつまが合わへんもん。」


「よかった!!
 今度、税務署に修正申告の具体的なやり方を聞きに行くから、
 そのとき、調査官に、
 コウセイノセイキュウについても言ってみるね!!」


ナンバーファイブ


「そうやな、絶対言わんとあかん。
 なんなら、OsakanナンバーファイブHOT税理士から言われました!
 って堂々と言ったたらエエねん」


「ナンバーファイブ?」


「そうや、気持ち的にはナンバーワンやけど、
 大阪にも4人くらいは俺以上にHOTな情熱の奴がおるやろうから、
 ナンバーファイブや」


「謙虚なのか、そうでないのか、
 竹ちゃんって相変わらずね・・・」


「どういう意味やねん!!!」



(完)




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以下、参考情報です
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【参考1】所得税法第56条 条文
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。

【参考2】親族が事業から受ける対価の取扱いについての一考察(税大論叢30号)

【参考3】衆議院 質問本文情報 所得税法第五十六条の見直しに関する質問主意書

【参考4】参議院 常任委員会調査室・特別調査室 立法と調査 No.429
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20201102036.pdf

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