事務所の空気は、
完全に固まっていた。
税務署員二人は、
互いに視線を交わす。
上席は、
軽く咳払いをした。
「わたくしどもは、
これで」
それは、
田中を救う言葉であり、
同時に、
この場を早く離れたいという
大人の判断でもあった。
事務官は、
深く頭を下げた。
「ご協力、
ありがとうございました」
書類をまとめ、
二人は静かに工場を後にする。
ドアが閉まる。
――これで、
税務調査は終わった。
はずだった。
田中は、
ゆっくりと息を吐いた。
だが、
その息は、
途中で止まる。
妻が、
まだそこに立っていた。
ヤマゲンは、
状況を察した。
「……なっちゃん」
夏美も、
何も言われずとも理解する。
「先生、
私、
ちょっと外に出てきますね」
そう言って、
そっと席を外した。
事務所に残ったのは、
三人。
いや、
実際には、
二人だった。
妻と、
田中。
ヤマゲンは、
椅子から立ち上がった。
「田中さん」
「税務調査は、
これで一区切りです」
視線を、
妻へ移す。
「……あとは、
ご夫婦の話や」
それだけ言って、
事務所を出た。
機械音のない工場に、
沈黙が落ちる。
妻が、
ゆっくり口を開いた。
「さっきの話」
低い声だった。
「クラブ通い」
「ひとりで行ってたんやね」
田中は、
答えない。
いや、
答えられない。
「接待やって、
ずっと言うてた」
「うちは、
信じてた」
一歩、
近づく。
「それで?」
「スクラップのお金」
「どこへやったん?」
田中の喉が、
鳴る。
逃げ場は、
ない。
税務署相手なら、
法律で守られる。
だが、
この問いは違う。
帳簿も、
申告書も、
総勘定元帳も、
役に立たない。
残っているのは、
事実だけだった。
「……遊びとかに」
絞り出すように言った。
「正直、
ちょこちょこ、
使ってしもうた」
妻は、
しばらく黙っていた。
怒鳴らない。
泣きもしない。
その沈黙が、
何より重かった。
「税務署には、
是認されたかもしれん」
「大和先生も、
あんたがスクラップ売上を
抜いているのに気付いて、
あんたに恥をかかさんように、
黙って、
尻拭いしてくれはった」
「でもな」
妻は言った。
「それで、
なかったことには
ならへん」
田中は、
うなだれた。
税務調査で、
否認されたのは
経費だけだった。
だが――
今、
否認されているのは、
生き方そのものだった。
妻は、
深く息を吸う。
「これからの話、
しよか」
その一言で、
田中は悟った。
本当の修正申告は、
これから始まるのだと。
帳簿に載らない問いが、
いま、
真正面から突きつけられていた。竹岡税務会計事務所
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