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連続税務小説 ヤマゲン
2026/01/16
連続税務小説 ヤマゲン 第16話「数字は合っているのに」  

決算書は、きれいにまとまっていた。

 売上。
 経費。
 利益。

 どの数字も、
 会計ソフトの中では、
 きちんと整列している。

「……ちゃんと合ってるよな」

 田中 恒一は、
 何度目か分からない確認をした。

 ズレはない。
 計算ミスもない。

 それでも、
 胸の奥に、
 小さな不安が残る。

 数字は合っている。
 でも、
 説明できるかと聞かれると、
 自信がない。

 先生との打ち合わせ。
 田中は、決算書を差し出した。

「数字自体は、
 大丈夫そうですよね?」

 先生は、しばらく黙って資料を見ていたが、
 やがて顔を上げた。

「ええ。
 数字は、きれいですわ

 その言葉に、
 田中は、少し安心しかけた。

「せやけどな」

 一拍。

税務署が見るんは、
 数字そのものちゃいます

 田中は、思わず眉をひそめた。

「……え?」

 先生は、ペンを取り、
 決算書の一部を指した。

「この材料費、
 去年より増えてますよね」

「はい。
 仕事量が増えたんで」

「それ、
 口で説明できます?

 田中は、言葉に詰まった。

 増えた理由は、分かっている。
 でも、
 それを順序立てて、
 第三者に説明することは、
 考えたことがなかった。

「税務署な」

 先生は、淡々と言った。

合ってるかどうかより、
 納得できるかどうか
 見てきます」

 納得。

「急に増えた数字があったら、
 『なんで?』
 って思うの、
 人として普通ですわ」

 田中は、
 自分が税務署側の立場だったら、
 と想像してみた。

 確かに、
 理由の分からない数字は、
 気になる。

「帳簿ってな」

 先生は、少し声を落とした。

記録である前に、
 説明書
です」

「説明書……」

「はい。
 この会社は、
 どうやって稼いで、
 どうやって使ってるか」

 田中は、
 決算書を見つめ直した。

 そこには、
 数字しか書いていない。

 理由も、背景も、
 載っていない。

「せやからな」

 先生は、続けた。

「メモが、
 めちゃくちゃ大事になります」

「メモ、ですか」

「ええ。
 『大型案件が増えた』とか、
 『材料価格が上がった』とか」

 ほんの一言でいい。
 でも、それがあるだけで、
 数字は、急に意味を持つ。

「数字はな」

 先生は、ゆっくり言った。

嘘はつかへんけど、
 何も語らへん

 田中は、
 その言葉を、
 静かに噛みしめた。

 合っている。
 それだけでは、足りない。

 説明できる。
 それが、次の段階だ。

 打ち合わせの帰り道、
 田中は、ノートを開いた。

 材料費が増えた理由。
 外注費が一時的に増えた背景。
 設備修理の経緯。

 今なら、思い出せる。
 でも、
 数年後はどうだろう。

 書いておかないと、
 自分自身が説明できなくなる。

 その夜、
 田中は、帳簿の横に、
 小さなメモ欄を作った。

 数字の横に、
 言葉を添える。

 たったそれだけで、
 帳簿が、
 急に“生き物”のように感じられた。

 数字は合っている。
 でも、それだけじゃない。

 納得できるかどうか。

 それが、
 次に越える壁だと、
 田中ははっきり理解した。


連続税務小説 ヤマゲン
2026/01/15
連続税務小説 ヤマゲン 第15話「65万円、そこにあるのに」  

決算書の数字を見ながら、
 田中 恒一は、首をひねっていた。

「……あれ?」

 会計ソフトの画面。
 青色申告特別控除――10万円

 その表示を見て、
 思わず画面を二度見した。

「65万円、ちゃうんか……?」

 青色申告だ。
 帳簿も付けている。
 ソフトも使っている。

 条件は、そろっているはずだった。

 それなのに、
 なぜか、10万円。

 田中は、
 先生の顔を思い浮かべ、
 すぐに電話をかけた。

「先生、
 青色の65万円控除って……
 自動で取れるもんちゃうんですか?」

 電話の向こうで、
 先生は、少し笑った気配を見せた。

それ、
 めちゃくちゃ多い勘違いですわ

 田中は、苦笑した。

「やっぱり……」

「ほな、
 一個ずつ、確認しましょか」

 先生の声は、落ち着いている。

「まずな、
 複式簿記で付けてはります?」

「……たぶん」

「“たぶん”は、
 だいたいアウトです」

 先生は、はっきり言った。

「会計ソフト使ててもな、
 設定間違ってたら、
 単式扱いになります」

 田中は、思わず背筋を伸ばした。

「次」

 先生は続ける。

期限内に申告してます?」

「……去年、
 ちょっと遅れました」

「それも、
 即アウトです」

 田中は、額に手を当てた。

「あと、
 e-Taxか、電子帳簿保存
 やってはります?」

「……やってないです」

「ほな、
 65万円は取れません

 淡々とした口調が、
 逆に、重く響く。

「条件はな、
 ちゃんと書いてあるんです」

 先生は言った。

「せやけど、
 誰も読まへん

 田中は、
 思わず笑ってしまった。

 笑えたのは、
 責められていないからだ。

「つまりな」

 先生は、整理するように言った。

「65万円控除は、
 ご褒美みたいなもんです」

「ご褒美?」

「ちゃんと帳簿付けて、
 期限守って、
 データで出した人だけの、な」

 田中は、
 ゆっくりうなずいた。

 楽して取れるものじゃない。
 でも、
 無理なものでもない。

「正直な話」

 先生は、少し声を落とした。

「これ、
 毎年何十万円も差が出ます

「……ですよね」

「せやから、
 “取れてへん”って分かった時点で、
 もう半分は成功ですわ」

 田中は、
 その言葉を噛みしめた。

 知らずに損する。
 それが、一番怖い。

「今年からな」

 先生は言った。

「設定も、
 申告方法も、
 全部そろえましょ」

「はい」

 返事は、迷わなかった。

 電話を切ったあと、
 田中は、決算書をもう一度見た。

 そこにあるはずだった、
 65万円。

 今までは、
 「取れなかった損」
 だと思っていた。

 でも今は、違う。

 「取れる形を知らなかっただけ」
 そう思えた。

 知れば、
 準備できる。

 準備すれば、
 結果は変わる。

 青色申告65万円控除は、
 魔法じゃない。

 ちゃんとやった人にだけ、
 ちゃんと返ってくる制度

なのだと、
 田中は、ようやく腹落ちした。


連続税務小説 ヤマゲン
2026/01/14
連続税務小説 ヤマゲン 第14話「それ、外注ちゃいますよ」  

その人は、よく工場に来ていた。

 元・同僚。
 独立する前、同じ会社で働いていた男だ。

「今、ちょっと時間あんねん。
 手、足りてる?」

 そう言われると、
 田中 恒一は、つい甘えてしまう。

「じゃあ、この加工、お願いできる?」

 図面を渡す。
 作業は、慣れたものだ。

 終わったあと、
 封筒に現金を入れて渡す。

「助かったわ」

「ええよ、ええよ」

 その関係が、
 もう何度も続いていた。

 月末。
 田中は、会計ソフトの前で手を止めていた。

「……これ、外注費でええよな?」

 請求書はない。
 領収書もない。

 あるのは、
 田中の記憶と、
 作業が終わった事実だけ。

 外注。
 便利な言葉だ。

 社員じゃない。
 家族でもない。

 だから、
 給与じゃない――
 そう思っていた。

 その夜、
 田中は先生に電話をした。

「先生、
 知り合いに手伝ってもろた場合って、
 外注費でいけますよね?」

 電話の向こうで、
 先生は、少しだけ間を置いた。

「状況、教えてもらえます?」

 田中は、
 作業内容、頻度、支払い方を説明した。

 しばらくして、
 先生が言った。

「……田中さん」

 声は穏やかだが、
 トーンが、少し変わった。

「それ、
 外注ちゃいますわ

 田中は、言葉を失った。

「え……?」

「外注いうんはな」

 先生は、ゆっくり説明した。

仕事のやり方を、
 相手が自分で決めてる

 状態です」

「やり方……」

「時間も、
 指示も、
 道具も」

 一つずつ、言葉を置く。

「田中さん、
 この人に、
 『何時から来て』
 『この手順でやって』
 言うてません?」

 田中は、
 無言でうなずいた。

「それな」

 先生は、はっきり言った。

限りなく、給与です

 胸の奥が、
 ずしんと重くなった。

「請求書があるかどうかやないんです」

 先生は続ける。

実態ですわ」

 ・指揮命令している
 ・継続的に来ている
・報酬が時間や作業量ベース
・他の仕事を断って来ている

「これ、
 雇われてるのと同じ
 判断されます」

 田中は、
 思わず机に肘をついた。

「知らんかった……」

「知らんでも、
 関係ないです」

 先生は、きっぱり言った。

「税務も、労務も、
 そこはシビアです」

「じゃあ、
 どうしたら……」

 先生は、少し声を和らげた。

「二択です」

 一つ。

ほんまの外注にする

「契約書作って、
 やり方は相手に任せる。
 成果物で払う」

 もう一つ。

給与として扱う

「源泉徴収して、
 帳簿に載せる」

 田中は、
 大きく息を吐いた。

「中途半端が、
 一番あかん、ってことですね」

「その通りですわ」

 先生は、少し笑った。

「みんな、
 楽なとこ取り
 したなるんです」

 楽に見える。
 でも、
 後で一番痛い。

「外注費と給与の違いってな」

 先生は、最後にこう言った。

呼び方やなくて、
 関係性の話
です」

 電話を切ったあと、
 田中は、工場の中を見渡した。

 自分が指示を出し、
 段取りを組み、
 責任を負っている。

 その中で、
 手伝ってもらっている人がいる。

 なら、
 それにふさわしい扱いを
 しなければならない。

 翌日、
 田中はその元同僚に電話をした。

「なあ、
 これからの話なんやけど」

 少し、緊張した声。

「ちゃんと、
 形、決めよか」

 相手は、
 一瞬黙ってから、言った。

「……それが、ええと思うわ」

 田中は、電話を切り、
 ノートを開いた。

 ・外注か、給与か
 ・指示の出し方
 ・支払い方法

 曖昧にしてきた関係に、
 言葉を与える。

 それは、
 縛ることじゃない。

 守るための整理
なのだと、
 田中は、少し分かった気がした。


連続税務小説 ヤマゲン
2026/01/13
連続税務小説 ヤマゲン 第13話「家族に払う給料には、条件があった」  

工場の片隅で、妻が伝票を並べていた。

「これ、今月分。
 請求書も、そろってるで」

 田中 恒一は、旋盤の手を止めた。

「助かるわ。
 ほんま、毎回ありがとうな」

 独立してから、
 妻はずっと、事務を手伝ってくれている。

 電話対応。
 請求書の発行。
 材料の発注。

 気づけば、
 “ついで”と呼べる量ではなくなっていた。

「なあ……」

 田中は、少し間を置いてから言った。

「これ、
 ちゃんと給料として出した方がええんかな」

 妻は首をかしげた。

「うーん。
 家計は一緒やし、
 別にええんちゃう?」

 田中は、
 その言葉に、すぐにはうなずかなかった。

 ――それ、
 税務的には、
 通らへん気がする。

 その夜、
 田中は先生に電話をかけた。

「先生、
 家族に給料払う話なんですけど……
 条件、ありますよね?」

 電話の向こうで、
 先生は少し間を置いてから答えた。

「あります。
 しかも、結構はっきり

 田中は、背筋を伸ばした。

「まず前提としてな」

 先生の声は、落ち着いている。

「田中さん、
 青色申告の届け、出してはります?

「……出してます」

「ほな、スタートラインには立ってます」

 少し、安心した。

「でもな」

 先生は、続けた。

それだけやと、足りません

「……え?」

「家族に給料を“経費”にしたいならな」

 一拍。

青色専従者給与の届出書
 これ、出してなあきません」

 田中は、思わずメモを取った。

「出してないと……?」

どれだけ働いてもろても、
 原則、経費にはなりません

 言葉は穏やかだが、
 内容は、はっきりしていた。

「じゃあ、
 白色申告の場合は?」

 田中が聞くと、
 先生は少し苦笑した。

「白色でもな、
 一応、控除はあります」

「一応、って……」

上限、かなり低いですわ」

 田中は、すぐ理解した。

 今の仕事量。
 今の関わり方。

 それを考えると、
 実務的ではない。

「つまりな」

 先生は、整理するように言った。

「家族に給料払いたいなら」

 ・青色申告をしていること
 ・青色専従者給与の届出を出していること
 ・仕事内容と金額が妥当であること
 ・実際に支払っていること

「この四つ、全部そろって、初めて“経費”です」

 田中は、ゆっくりうなずいた。

「知らんまま払ってたら……」

「アウトですわ」

 先生は、きっぱり言った。

「悪気なくても、
 否認されます

 その言葉は重かった。
 でも、不思議と怖さはなかった。

 理由が、はっきりしたからだ。

「なあ、田中さん」

 先生は、少し声を和らげた。

「これな、
 節税の話やないです

 また、その言葉だ。

「仕事として頼んでるなら、
 制度も、ちゃんと使いましょ」

 電話を切ったあと、
 田中は工場に戻った。

「なあ」

 妻に声をかける。

「給料の話、
 ちゃんと整理せなあかんみたいや」

「どういうこと?」

「青色申告で、
 ちゃんと届出せんと、
 経費にならへんねん」

 妻は、少し驚いた顔をした。

「そんなん、知らんかったわ」

「俺もや」

 二人で、少し笑った。

 その夜、
 田中はノートに書いた。

 ・青色専従者給与の届出
 ・業務内容
 ・時間
 ・金額
 ・振込方法

 感覚じゃない。
 情でもない。

 制度を知った上で、
 どう使うかを決める。

 家族に払う給料は、
 “なんとなく”では、成り立たない。

 事業として、
 ちゃんと向き合っているかどうか

 それが、
 問われているのだと、
 田中は初めて腑に落ちた。


連続税務小説 ヤマゲン
2026/01/12
連続税務小説 ヤマゲン 第12話「家事按分という、あいまいな壁」  

工場のシャッターを半分下ろすと、
 中は、仕事と生活の境目が、ますます分からなくなる。

 田中 恒一の工場は、自宅の一角にあった。
 旋盤の音が止まると、
 そのまま台所の物音が聞こえてくる。

「……ここ、全部仕事ってわけでもないしな」

 月末。
 田中は、光熱費の請求書を広げていた。

 電気。
 水道。
 ガス。

 どれも、家と工場が一緒だ。

 会計ソフトの画面には、
 「家事按分」という言葉が表示されている。

「……按分、ね」

 何となく、
 半分くらい?
 そんな感覚で、今までやってきた。

 理由は、説明できない。
 ただ、
 「それくらいかな」
 という気持ち。

 田中は、先生の顔を思い出し、
 スマートフォンを手に取った。

「先生、家事按分って……
 正直、どこまでが正解なんですか」

 少し間があって、
 返事が来た。

「正解はな、
 一個やないです

 思わず、画面を見つめる。

「え?」

「大事なんはな、
 数字より理由ですわ」

 先生は、電話口で続けた。

「たとえばやで。
 工場、何時間動かしてます?」

「平日は、だいたい八時間くらいです」

「ほな、
 家は、二十四時間使てますよね」

 田中は、黙ってうなずいた。

「面積は?」

「工場が、全体の三割くらいです」

「ええですね」

 先生の声は、相変わらず落ち着いている。

「ほなな、
 時間と面積、どっちを基準にするか
 決めたらええんです」

「……どっちが正しい、じゃなくて?」

「せやから、
 筋が通ってるかです」

 田中は、メモを取りながら聞いた。

「半分、っていうのがな」

 先生は、少し笑った。

「いちばん多いんですわ。
 理由のない半分

 胸が、ちくりとした。

「それ、
 税務署に聞かれたら、
 どう説明します?」

 田中は、言葉に詰まった。

「……できない、です」

「でしょ」

 先生は、優しく言った。

「按分いうんはな、
 ズルするためのもんちゃいます

 一拍置いて、続ける。

「自分で、
 『ここまでは仕事』
 って線を引くためのもんです」

 田中は、請求書を見つめ直した。

 電気を一番使うのは、
 機械が回っている時間だ。

 水道も、
 冷却や清掃で、
 工場の使用が多い。

 ガスは、
 ほとんど生活だ。

「……電気と水道は、
 工場三割、
 ガスは、ほぼゼロ、
 でいけそうですね」

「ええと思います」

 先生は、即答した。

「その代わりな、
 メモ残しときましょ

「メモ?」

「はい。
 『機械稼働時間が長いため』とか、
 『工場面積が三割のため』とか」

 田中は、ノートに書き込んだ。

 理由を書く。
 考え方を書く。

「これな」

 先生は、少し声を落とした。

「税務署のため、
 やないです」

「……え?」

未来の田中さんのためですわ」

 数年後。
 今のことを、
 正確に覚えている自信はない。

 でも、
 理由が書いてあれば、
 自分でも、納得できる。

「家事按分ってな」

 先生は、最後にこう言った。

あいまいなもんを、
 あいまいなまま放っとかん

 ための作業です」

 電話を切ったあと、
 田中は、静かに入力を始めた。

 半分、ではない。
 感覚、でもない。

 自分なりの、
 説明できる数字。

 入力を終えたとき、
 胸の奥に、
 小さな達成感が残った。

 完璧じゃない。
 でも、
 逃げていない。

 家と工場。
 生活と仕事。

 混ざり合っているからこそ、
 考える意味がある。

 田中は、画面を閉じ、
 深く息を吐いた。

 あいまいな壁は、
 壊すものじゃない。

 言葉で、
 説明できるようにするもの

なのだと、
 少し分かった気がした。

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