田中 恒一は、名刺を手に取ったまま、しばらく動かなかった。
そこには、黒い文字で、肩書きと名前。
そして、その下に小さく――税理士。
「……電話、するか」
独り言のように呟いて、
スマートフォンを手に取る。
すぐには、番号を押せなかった。
今さら、何を聞けばいいのか。
どこから説明すればいいのか。
黒字なのに苦しい。
利益が出ているのに、お金がない。
そんなことを言って、
笑われないだろうか。
田中は、一度、通帳アプリを閉じ、
ノートを開いた。
利益と現金。
同じだと思っていた二つの言葉を、
横に並べて書く。
利益。
現金。
しばらく見つめて、
線を引いた。
同じじゃない。
そう、はっきり分かる。
利益は、計算の結果だ。
売上から経費を引いた、数字の上の答え。
現金は、
実際に、
出入りするお金。
材料を買えば、出ていく。
設備を直せば、出ていく。
税金を払えば、出ていく。
でも、その多くは、
利益が出た“後”に、やってくる。
「……ズレてるんだ」
時間が。
利益は、
今の数字。
現金は、
少し遅れて動く。
そのズレを、
今まで、ちゃんと意識してこなかった。
田中は、名刺の裏に、
小さく書き込んだ。
「利益≠現金」
その瞬間、
少しだけ、気持ちが軽くなった。
分からないまま苦しいのと、
分かって苦しいのとでは、
全然、違う。
そして、
分かってしまった以上、
次にやるべきことも、
うっすら見えてくる。
――聞いてみよう。
田中は、ついに番号を押した。
数回の呼び出し音のあと、
落ち着いた声が、耳に届いた。
「はい、〇〇税理士事務所です」
一瞬、言葉に詰まる。
「あ、あの……製造業をやっている、田中といいます」
自分の声が、少し硬い。
「ええ。どうされました?」
その声は、
思っていたよりも、淡々としていた。
責めるでもなく、
急かすでもなく。
田中は、深呼吸をして、
こう言った。
「黒字なんですが……
お金が、残らなくて」
一拍。
電話の向こうで、
声が、少しだけ、柔らかくなった。
「……それは、多いですね」
その一言で、
田中の肩から、
力が抜けた。
笑われなかった。
否定されなかった。
むしろ、
「よくあること」
として、受け止められた。
「一度、資料を見ながら、
整理しましょうか」
整理。
その言葉が、
妙に、心に残った。
「はい……お願いします」
電話を切ったあと、
田中は、しばらく動けなかった。
問題が、
消えたわけじゃない。
でも。
一人で抱えなくていい
そう思えた瞬間だった。
利益と現金は、別の生き物。
そのことを、
初めて“誰かと共有できた”夜だった。
竹岡税務会計事務所
経営が見えない!を数字でクリアに。
まずは、お気軽に無料相談を。
電話番号:090-7499-8552
営業時間:10:00~19:00
定休日 : 土日祝
所在地 : 大阪府富田林市須賀1-19-17 事務所概要はこちら