預金の流れを整理して、三日。
田中の工場の事務所。
ヤマゲンがB4サイズの
集計用紙を鞄から取り出し、
線を引いている。
定規。
鉛筆。
静かな音。
「何を書いてるんですか?」
「売掛金台帳や」
横に、得意先名。
日付。
売上。
入金。
残高。
一本ずつ、線を引く。
田中は、少し戸惑う。
「……これ、エクセルで作った方が早いんちゃいますか?」
ヤマゲンは、手を止めない。
「その通りや」
一拍。
「でもな」
鉛筆の先が止まる。
「今は、“早さ”より“理解”や」
「残高がどう動くか」
「売上が立ったら増える」
「入金があったら減る」
「当たり前やけど、
当たり前が腹に落ちてへん社長が多い」
線を引き終える。
「一回、自分の手で書く」
「頭と指で覚える」
「それができてからや、ソフトを使うのは」
田中は、黙って見ている。
「後々は、エクセルでもええ」
「販売管理ソフトでもええ」
「自動で回収予定表や年齢表を出すやつもある」
「でもな」
ヤマゲンの声が少しだけ低くなる。
「仕組みに使われる社長になったらあかん」
「仕組みを使える社長にならなあかん」
夏美が、静かにうなずく。
田中は、ペンを持つ。
○○製作所
9月10日 加工代 300,000
10月31日 入金 300,000
残高 0
「これが“信用”や」
ヤマゲンが言う。
「請求して、入金される」
「この往復が、会社の血流や」
ページをめくる。
△△工業
9月15日 加工代 420,000
10月20日 入金 200,000
残高 220,000
田中の眉が、わずかに動く。
「……あれ?」
もう一枚。
□□精密
1月25日 加工代 180,000
入金 ――
残高 180,000
沈黙。
工場の換気扇の音だけが響く。
「△△工業は、
まだ日が浅いからエエとして、
□□精密、
これ、まだ入ってへんのか?」
田中は、目を伏せた。
「ちょっと……遅れてるだけです」
「ちょっとって、結構経っとるがな」
一拍。
「連絡は?」
「いや……忙しい言うてはって……」
ヤマゲンは、静かに言う。
「忙しい会社ほど、払う」
「払わん会社は、カネが無い」
空気が重くなる。
「ええか、田中さん」
「売掛金は、“まだ自分のカネちゃう”」
「入金されて、はじめて自分のカネや」
ヤマゲンは、売上日を指でなぞる。
「ちなみにやけどな」
「商事債権――つまり売掛金の時効は、
昔は2年やったけど、
今は5年」
「そやけど、
悠長にしとったら、
時効で消える可能性がある」
田中の喉が鳴る。
「でもな」
「いくつか方法はある」
内容証明で請求する
支払約束書を書いてもらう
「そうやって、“時効の完成を猶予・更新”させる」
言葉は静かだが、重い。
「信用はな」
「信じることと、管理することは別や」
田中は、売掛金台帳を見つめる。
これまで、請求書の控えがあるだけだった。
今は、残高が見える。
滞留が見える。
危うさが見える。
「……先生」
「なんや」
「オレ、甘かったです」
ヤマゲンは、首を振る。
「今、気づいたら十分や」
「法人化はな」
「信用を背負うってことや」
「売掛金を管理できへん社長に、法人は重い」
机の上の台帳。
未回収の金額。
それは単なる数字であると同時に、
会社の未来の重さでもあった。
土台は、現金。
流れは、預金。
そして――
信用は、売掛金。
田中は、ペンを握り直し、
もう一度、
□□精密のページを見つめた。
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