在庫の話が終わった日の午後。
工場の奥。
低く唸る旋盤の音。
ヤマゲンは、一台の機械の前で立ち止まった。
「これ、何年使っとる?」
「七年目です」
「あと、何年使うつもりや?」
「……十年は、使いたいです」
一拍。
「ほな、この機械はな」
ヤマゲンは、鉄の表面にそっと触れた。
「十年かけて、少しずつ消えていく」
田中が黙る。
「固定資産っちゅうのはな」
「カネやない」
「時間を買っとるんや」
旋盤が止まり、静寂が落ちる。
「でも先生」
夏美が口を開く。
「そもそも、どこからが固定資産なんですか?」
ヤマゲンがうなずく。
「ええ質問や」
「まず、“一年超使うもの”」
「でも、それやと個人差がある」
「そやから、金額基準が原則や」
「つまり、十万円以上」
田中が眉を寄せる。
「十万未満は?」
「消耗品費で落としてええ」
「一発経費や」
夏美が続ける。
「二十万円とか三十万円はどうなるんですか?」
「二十万未満なら三年均等償却」
「十万以上三十万未満なら、
青色申告をしている中小企業・個人事業は、
特例で即時償却してもええ」
「せやけどな」
一拍。
「減価償却は、
利益をいじるために使う制度やない」
「仕事を続けるための制度や」
ヤマゲンは紙に式を書く。
取得価額 ÷ 耐用年数 = 年間償却費(定額法)
「これが定額法」
「毎年、同じ額を落とす」
「定率法は最初に多く、あとで少なく」
「最初に選択せなあかん」
「途中で気分で変えられへん」
夏美が言う。
「減価償却って、
経費なのにお金は出ていかないですよね?」
「そうや」
「減価償却は、“カネの出ていかん経費”や」
「せやからな」
「利益が出とるのに、カネが残らん会社がある」
「償却を理解しとる会社は、設備更新の準備ができる」
田中は機械を見つめる。
七年前、借入で買った。
まだ返済は続いている。
「借入は、カネの流れ」
「減価償却は、時間の流れ」
「ここをごっちゃにしたらあかん」
静寂。
そのとき。
ヤマゲンは、ポケットをごそごそと探った。
「……先生?」
夏美が首をかしげる。
取り出したのは、小さな箱。
イチゴポッキー。
「時間の話はな」
一本取り出す。
「ちょっと糖分が要る」
ポキッ。
軽い音。
「これもな」
半分に折って、夏美に渡す。
「一気に食うたら終わりや」
「でも、ゆっくり食うたら、長持ちする」
田中が苦笑する。
「機械も同じや」
「雑に使ったら早よ終わる」
「丁寧に使えば、長持ちする」
ヤマゲンは、残りを口に入れた。
「時間は、使い方次第や」
甘さが、静かな工場に溶ける。
「法人化する、っちゅうことはな」
「時間を背負うっちゅうことや」
「来年も、その次も」
「設備を維持する覚悟や」
田中は、機械に触れた。
冷たい。
重い。
そして確実に、時間が刻まれている。
土台は、現金。
流れは、預金。
信用は、売掛金。
見えない利益は、在庫。
そして――
未来を刻むのは、固定資産。
時間は減っていく。
だが。
「どう刻むかは、
田中さん――社長次第や。」竹岡税務会計事務所
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